東京地方裁判所 平成10年(ワ)21687号 中間判決
当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
主文
被告の本案前の主張はいずれも理由がない。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
原告らは、別紙「被告両名の主張」目録記載の内容の不法行為並びに信認義務及び/又は注意義務の違反に基づく損害賠償義務の存在しないことの確認を求め、被告らは、右訴えをいずれも却下することを求めた。
第二事案の概要
一 被告らが、英国領ケイマン諸島(以下、単にケイマンという。)において、原告らに対し、別紙「被告両名の主張」目録記載の事実関係に基づきケイマン法上の信認義務又は注意義務違反があると主張して、これによる損害賠償請求訴訟を提起していることには当事者間に争いがない。
被告らは、右事実関係に基づき、原告らが日本法上の不法行為責任を負う可能性があると考えており、その責任追及を放棄する意思はないとしている。
二 被告らは、ゼロクーポン債発行のために設立された特定目的会社であって、いわゆるペーパーカンパニーであり、ケイマンは勿論世界中のどこにも物的施設や従業員を有さず、ケイマンにおいては現地の弁護士が被告らの設立手続やその後の取締役会の議事録を作成しているほか被告ら名義の預金口座が存在する程度であり、ケイマンでの訴訟で問題とされている原告らの行為も、その法的評価を離れた自然人の行為としてはすべて我が国内で行われたものであることを自認している。
三 被告らは、第一に、訴訟物が特定されていないこと、第二に、不法行為責任不存在確認訴訟には訴えの利益がないこと、第三に、本件につき我が国に国際的裁判管轄がないこと、の三点を主張して、訴えの却下を求めている。
第三当裁判所の判断
一 原告らの本訴請求は、別紙「被告両名の主張」目録記載の事実関係に基づいては、不法行為、信認義務違反、注意義務違反のいずれについても損害賠償責任を有しないことの確認を求めるものと認められるところ、右目録記載の事実中には日時場所等の特定を欠く部分もあるものの、右法的責任の不存在を求める限度においては、その外延となる事実関係は同目録において十分に特定できており、そうである以上訴訟物の特定に不足はない。
二 被告らは、別紙「被告両名の主張」目録記載の事実関係に基づき、原告らが日本法上の不法行為責任を負う可能性があると考えており、その責任追及を放棄する意思はないとしているのであるから、本訴請求中の右不法行為責任の不存在確認を求める部分に訴えの利益が欠けるものではない。
三 前記第二及び弁論の全趣旨によると、原告らが不存在の確認を求めている不法行為責任の不法行為地は、すべて我が国内であると認めることができる。そうである以上、右不存在確認訴訟につき我が国が国際裁判管轄を有することは明らかである(被告らは、不法行為債務の不存在確認訴訟においては不法行為地に国際裁判管轄を認めるべきではないと主張するが、その根拠は、要するところ、被害者の保護に欠けるということに尽き、その点は、真に不法行為が行われた否かが明らかでない段階で論ずべき管轄の有無に関しては、必ずしも重視することができないというほかなく、他に不法行為債務の不存在確認訴訟につき特別の取扱いをすべき根拠は見出し難い。)。
信認義務違反と注意義務違反に基づく損害賠償義務不存在確認請求は、その原因となる事実関係が右の不法行為責任不存在確認請求と同一であるから、両者は関連請求の関係にあると認めることができ、後者につき我が国に国際裁判管轄が認められる以上、前者についてもこれを認めることができる。
なお、被告らは、前記のとおり、本訴に先立ちケイマンにおいて、別紙「被告両名の主張」目録記載の事実関係に基づきケイマン法上の信認義務又は注意義務違反があると主張して、これによる損害賠償請求訴訟を提起しているが、国際間において二重起訴禁止の法理が適用されるべき法的根拠は見当たらないし、前記のとおり、被告らはいわゆるペーパーカンパニーであってケイマンに何らの物的施設や従業員も有しておらず、右事実関係中の原告らの行為も法的評価を離れた自然人の行為としてはすべて我が国内で行われたというのであるから、これらを考慮すると、前訴の存在は、原告らが我が国において本訴を提起することを妨げるものではないというべきである。
四 以上によると、被告らの本案前の主張はいずれも理由がないので、主文のとおり中間判決をする。
(裁判官 藤山雅行)
(別紙) 当事者目録
原告 石井至
原告 丹野文江
原告 石井美智子
右三名訴訟代理人弁護士 市東譲吉
被告 クレディット・アービトラージド・アセット・バック・スリー・リミテッド
右代表者 エリック・シェヴレ
被告 クレディット・アービトラージド・アセット・バック・フォー・リミテッド
右代表者 エリック・シェヴレ
右両名訴訟代理人弁護士 三好啓信
同 梅野晴一郎
同 藤本欣伸
同 鯉沼希朱
別紙
「被告両名の主張」目録
一、 被告両名の主張
1.被告両名は、ケイマン諸島の法律に従って設立された免税法人であり、問題の期間中、一九九九年三月三一日償還の債券(以下「ゼロクーポン債」)の発行により資金調達を行う特別目的会社としての事業を運営した(又現在も運営し続けている)。
被告両名は、かかる債券の要綱及び被告両名の基本定款に記載された目的にしたがって、かかる発行代わり金を再投資する予定であった。
2.原告石井至は、問題の期間中、被告両名らに対し、信認義務及び/又は注意義務を負い、実質的には被告両名の影の取締役であった。
原告石井美智子および原告丹野文江は、一九九六年三月二七日に任命された被告両名の取締役である。
原告らは、一九九七年九月二〇日付決議をもって、被告両名の取締役を解任された。
3.原告らは被告両名の取締役として(原告石井至は影の取締役として)、被告両名に対し、合理的範囲の専門技術と注意を行使する義務、及び忠実義務を含む注意義務及び信認義務を負っていた。
被告両名の資産が債券の要綱に従うとともに基本定款記載の被告両名の目的に従って使用され、かつ被告両名が行う取引が全てこれらの目的を逸脱しないよう確実を期することが、原告らの最優先の義務であった。
4.被告両名の目的は概ね次のとおりである。
(一)七五億円(CAAB3)、一五〇億円(CAAB4)のゼロクーポン債の一度の発行のみによる資金の借入・調達を行うこと。
(二)これらゼロクーポン債の発行代わり金をスタンダード&プアーズ又はムーディーズ・インベスター・サービスよりAAAの格付けを受けている銀行に、有利と思われる条件で預金すること。
(三)ISDAのマスターアグリーメントに基づく一度以下(正確には、「一倍以下」と翻訳すべきもの)のレバレッジの付された金利スワップ取引に関わる明治生命保険相互会社の全ての債務を日本法に準拠した保証に基づいて保証すること。(CAAB3)
ISDAのマスターアグリーメントに基づく一度以下(正確には、「一倍以下」と翻訳すべきもの)のレバレッジの付された金利スワップのレバレッジの付された金利スワップ取引に関して日本法に準拠したプットオプションを売却すること。(CAAB4)
(四)明治生命保険相互会社から、同社のその他の全ての優先債務及び非劣後債務と同順位の固定価値の保険又は年金債務を購入すること。
5.ゼロクーポン債(本債券)の要綱は概ね次のとおりである。
(一)本債券の発行・購入価格は元本金額の93.25%とした。
(二)本債券の償還日は一九九九年三月三一日午前一〇時とした。
(三)ゼロクーポン債の発行代わり金から購入契約書に従ってRBCジャージーに支払われる額を差し引いた金額が被告両名から支払われること。
(四)被告両名は明治生命保険相互会社から固定価値の保険又は年金債務を購入することにより購入手取金額を再投資し、かかる発行代わり金は他のいかなる目的にも使用しないこと。
6.一九九六年三月二九日又はこの頃に締結された購入契約書に従い、一九九六年三月二九日、機関投資家金融法人は本債券を購入するとともに、被告両名は購入契約書の条項に従ってこれを販売した。
7.ケイマン諸島の法律事務所メイプルズ・アンド・カルダーは、不正な計画(正確には、「詐欺的計画」または「詐欺的策略」と翻訳すべきもの)を更に進めるため、原告石井至の指示に従ってケイマン諸島の法律に基ずく免税法人としてCAABインベストメント・アドバイザーズ・リミテドを設立した。
8.原告らは、本債券の要綱並びに被告両名に対する信認義務及び/又は注意義務に違反し、原告石井至は影の取締役としてのその権能において、被告両名をして、購入手取金額の明治生命相互保険会社(明治生命)の固定価値の保険または年金債務への投資を行わないようにせしめ、代わりに被告両名をして、原告ら(本件借入人)に対し、購入手取金額を貸し付け(貸出)しめた。
9.このような「貸出」の実行は、被告両名の能力外でありかつ無効であって、被告両名に本件借入人に対して貸出契約を締結させてかかる支払を行わせたことにより、原告らは、被告両名に対する信認義務及び/又は注意義務に違反した。
10.原告らによる信認義務及び/又は注意義務に対する違反が、元本金額が相応の利益を生むべく再投資されるまでの間、適切な市場金利で投資されていた場合に得べかりし利息の損失に相当する損失を被告両名に与える結果となった。
11.原告石井至は、被告両名にCAABインベストメント・アドバイザーズ・リミテドに対して、「投資顧問手数料」を支払わせた。
被告両名は、CAABインベストメント・アドバイザーズ・リミテドに対して、「投資顧問手数料」を支払う権限は有さず、従って被告両名の能力外であり、かつ無効であった。原告らは、これらの支払いがその性格上、能力外であったこと、及び被告両名に「投資顧問手数料」を支払わせることで、被告両名に対する信認義務及び/又は注意義務に違反したことを十分認識していた。
「投資顧問手数料」は詐欺行為を行うための名目とされた無効な支払であり、原告らによる信認義務の違反であった。
12.CAABインベストメント・アドバイザーズ・リミテドは被告両名に対しいかなる「投資」又はその他の役務も提供せず、その唯一の目的は、原告石井至及び同原告と共にあったもしくは同原告の指示下にあった仲間により開始・実行された詐欺的計画の一部として最終的に原告石井至及び/又は原告らの利益となるように企図された113,442,246円の支払いを受領することであった。かかる支払いは被告両名の能力外であり、原告らの信認義務及び/又は注意義務に違反して被告両名の資産を不正流用するものであった。
CAABインベストメント・アドバイザーズ・リミテドはこのような理由により又事情の下で設立され、原告らの被告両名に対する原告らの信認義務に違反してこの詐欺行為を行い、実行するのを(故意に支援し)、かつ原告らの詐欺行為による果実の一部を故意に受領したとされている。
13.結論として、原告らは、被告両名に対し、
(一)被告両名の取締役であった「本件借入人」との間で貸出契約書と称される書類を締結させたこと、及び
(二)CAABインベストメント・アドバイザーズ・リミテドに対し、投資顧問手数料を支払わせたこと、及び
(三)購入手取金額を本債券の要綱及び被告両名の目的に従った方法以外の方法により払い出させたこと、により、
原告らはかかる取引が被告両名の能力外であることを承知しながら、又はこれを意に介さず、被告両名らに極めて悪質の詐欺行為(正確には「極悪の詐欺、極悪の詐欺行為」と翻訳すべきもの)を行うことによって彼らの信認義務及び/又は注意義務に違反し(原告石井至については被告両名の影の取締役として)、又被告両名が蒙ったところの、被告両名の資産の不正使用を含む損失の全て、又は元本金額にかかる利息の損失に対して責任を有している。